研究室公開

OPEN LABORATORY

未来を切り拓く最先端のエレクトロニクス
電子工学コース

03

未来材料「グラフェン」の不思議!!

☆原子シートの世界を体験してみよう☆

加藤(俊)・岡田研究室

EXHIBIT

オープンキャンパスでの展示

究極の原子シート:グラフェン

量子コンピュータや人工知能(AI)半導体など、新しい機能を持った電子素子である“量子エレクトロニクス”を日常で使う社会がすぐそこまで来ています。この量子エレクトロニクスで活躍が期待されている、原子1つ分の厚みしか持たない究極の原子シートであるグラフェンを実際に手に取ってその不思議な世界を体験してください。

スマホアプリが研究室をナビゲート

SmartCampusへ

研究内容

皆さんが普段手にしているすべての物質は、数十億個以上の原子・分子が積み重なってできています。例えば、身近にある薄い“ラップ”でもその厚さは約10マイクロメートル程度なので、単純計算で5万個以上の原子に相当する厚さがあります。これらはいわゆる3次元物質と呼ばれています。これに対して、原子1つ分の厚さしか持たない原子シートが存在します。それらは原子層材料と呼ばれ、例えばカーボンナノチューブやグラフェン等が有名です。グラフェンの発見者には2010年のノーベル物理学賞が与えられています。厚さは原子オーダーで極薄ですが面方向には数mm~数十cm広がったシート構造をしているので、実際に肉眼で見たり手で触ったりすることができます。この様な原子層材料には、通常の3次元物質には見られない、特別な現象(量子効果)が多数発現することがこれまでの世界中の研究者により明らかにされています。そこで、本研究室では、この特別な量子効果を持つ原子層材料に着目して、それらを積極的に使った量子エレクトロニクス素子の開発と社会実装を目指して研究しています。具体的には、世界最高品質の原子層材料を合成する研究と、それらを活用した原子層量子エレクトロニクス(量子コンピュータ、超電導デバイス、太陽電池、流体発電等)素子の開発に取り組んでいます。

【原子層材料の超高品質合成】

現在のシリコン半導体の爆発的な発展が、高品質のシリコン結晶が合成できるようになったことに由来していることからも分かるように、高品質の結晶を合成する技術は、その材料の応用・社会実装に向けて極めて重要な課題です。そこで、我々は、独自の合成技術を開発して、世界最高品質の原子層材料合成を目指して研究に取り組んでいます。
 
 
<カーボンナノチューブのカイラリティ制御合成>
カーボンナノチューブ(CNTs)は炭素から構成される2次元シートであるグラフェンがチューブ状になった1次元材料です。原子構造であるカイラリティ制御は発見から30年以上経っても未だに解決されていない究極の課題です。この課題に対し我々は、近年新たな多元系触媒を発見し(6,5)カイラリティCNTsの世界最高純度での合成に成功しました。現在は、人工知能(AI)技術をCNTs合成に取り入れ、原子層材料合成の新たな手法開拓にも挑戦しています。
 
<グラフェンナノリボンの集積化合成>
グラフェンナノリボン(GNR)は、2次元構造のグラフェンが短冊(リボン)状になった1次元材料です。GNRはグラフェンには見られない半導体特性を示したり、特異なエッジ状態を形成したりするなど興味深い物性を示します。ただし、数ナノメートル幅の1次元構造体を基板上に選択的に合成する技術は開発されていませんでした。これに対し我々は、独自に開発した合成手法を用いてGNRの位置と配向性を制御して大規模集積化合成することに世界で初めて成功しました。現在ではこの技術を活用して、様々なグラフェン量子エレクトロニクスの開発を進めています。
 
<遷移金属ダイカルコゲナイドのその場観測合成>
遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)とは、グラフェンと類似の原子厚みの二次元シート材料です。グラフェンは炭素原子から構成されるのに対し, TMDは遷移金属(MoやW)とカルコゲン原子(SやSe)から構成されています。TMDは半導体物性や超伝導体など特異な物性を示すことから、近年原子層材料の中で最も注目されている新材料です。超高品質のTMD結晶を合成するためには、その合成機構を明らかにすることが重要であるという観点のもの、原子厚みの2次元シートが成長している様子を光学的に観測できる“その場観測CVD法”を世界で始めて開発しました。これにより、TMD特有の成長機構を明らかにすることに成功しています。この技術を活用して、世界最高品質のTMDs合成手法の開発を行っています。
 
<ヤヌス原子層材料の合成>
TMDは遷移金属の上側と下側を同じカルコゲン原子が挟み込んだ構造を取っています。近年、上側のカルコゲン原子だけを選択的に別のカルコゲン原子に入れ替える原子置換法が開発され、上側と下側で組成が異なるカルコゲンから構成されたTMDであるヤヌスTMDという材料が注目されています。さまざまな特異な量子効果の発現が理論的に予言されていて、将来の量子エレクトロニクスへの活用が期待されています。発見からまだ日が浅く、このヤヌスTMDを高品質で合成できる研究グループは世界でも数グループに限定されています。本研究室では、世界の数グループの一つであり、超高品質のヤヌスTMDの創成と新規量子エレクトロニクス応用を目指して、国内外多くの研究機関と連携して研究しています。

【原子層量子エレクトロニクスの開発】

原子層材料には特異な量子効果が多数発現することが多くの基礎研究により明らかになっています。しかしながら、それらの量子効果を積極的に活用して実社会に応用可能な素子の開発はまだ世界的に全く進んでいません。そこで、我々は自分たちで合成した世界最高品質の原子層材料を活用した、新たな量子エレクトロニクス素子の開発と社会実装を目指して研究しています。
 
<グラフェン量子ドット素子の開発>
独自に開発したグラフェンナノリボン(GNR)集積化合成手法を活用して、GNRの量子ドット素子の開発を進めています。GNRの長さを極限まで短くすることで、我々のGNRが良好な量子ドットとして振る舞うことを実証しました。今後本格的な量子ドット集積デバイス応用に繋げていく予定です。
 
<グラフェンジョセフソン接合素子の開発>
抵抗がゼロになる超電導状態を活用した素子の一つにジョセフソン接合素子があります。ジョセフソン接合素子自体は、古くから開発され既に様々な場所で社会実装されていますが、近年このジョセフソン接合素子が量子コンピュータに活用できることが分かり再び大きな注目を集めています。本研究室では、グラフェンを使ってジョセフソン接合素子を開発することにより、従来素子には無い新たな機能を合わせ持ったジョセフソン接合素子の開発を目指しています。量子コンピュータの専門家との共同研究を通じて、将来の大規模演算型量子コンピュータへの実装を本格的に目指して取り組んでいます。
 
<高透明原子層太陽電池の開発>
原子オーダーの薄さを持つ原子層材料は、可視光をほぼ透過する“透明性”という独自の機能を持っています。この透明原子シートを活用して、人間の生活環境に調和できる高透明太陽電池の開発に取り組んでいます。原子層材料であるTMDを発電層に用いて、室温でも安定に励起子が生成されるというTMD特有の量子効果を活用した結果、可視光平均透過率が約80%の極めて透明度の高い太陽電池の実現に世界で初めて成功しました。本技術は、現在全くエネルギーを作り出していない窓ガラスや車のフロントガラスなどからもエネルギーを取り出せるようになることから、本格的な社会実装に向け研究を展開しています。
 
<グラフェン流体流動発電素子の開発>
2次元材料であるグラフェン上を水が流れると発電する現象があります。本研究室の岡田健准教授が主導するグループではマイクロフローチップを用いた実験で起電力の定量に成功しました。この成果によって水がグラフェン上を流れるとき、流速に応答して電圧が発生すること、グラフェンに接する水の面積と流速に比例して起電力が増加することが明らかになりました。現在は、詳細な発電機構の解明と実用化に向け研究を展開しています。